僕はポピュラー音楽のシンガーソングライターこそが「現代の詩人」なのだと思っている。
ミュージシャン佐野元春さんのお言葉です。
INIのメンバー作詞の曲を聴いて、私はこちらの言葉を思い起こしました。
「これこそ現代の詩人だ」と感動した才能をご紹介したいということでブログを書きます。
ご紹介する曲は、INI 5th Single「TAG ME」収録曲の「YOU IN」。
作詞はメインボーカルの一人である藤牧京介さん。
「YOU IN」は聴くほど面白くなる曲だと思います。私は何回も印象が変わりました。
こちらのブログでは、「YOU IN」に感じる良さをオタクが好き勝手に書き綴りたいと思います。
藤牧京介さんが歌詞について語られたこと少々、オタクの妄想 大量となりますので、“そんなふうに聴く人もいるんだ”くらいに思っていただければ幸いです。
藤牧京介「YOU IN」を語る
INIがパーソナリティを務めるラジオ番組「From INI」で作詞されたご本人が「YOU IN」について語られた回があります。
2023年10月13日(金)深夜放送の#93、1時台(髙塚大夢さん・藤牧京介さん)
↓「From INI」は「AuDee」で無料で聴けます ↓(YOU IN の話は13:55ごろ~)。
↓ TOKYO FMさんの放送回(#93)がまとめられた記事↓
https://nordot.app/1086953794431943659?c=516798125649773665
↑こちらの話を聞いたことがない方は、ぜひ一度ご一読ください。↑
( 藤牧京介さん )
“ハマっちゃいけない” “好きになりすぎちゃいけない”ものというか……最近、“沼にハマる”とか言うけど、本当に抜け出せないようなものを表現したくて。これ以上は進んじゃいけないんだけど、もう手遅れというか。そういう状況をこの曲に込めました。
~略~
1番では「君」という人に一目惚れのような状態で、2番くらいからはもう手遅れなのね。こっちに気がないことに気づいているんだけど、どうしようもない状態で、沼にハマってしまった状態。
~略~
(明るい歌詞の部分について)
どうしようもないから関係ないことを考えて、ここからどうにかして抜け出す方法はないか……という開き直りを表現しました。だから、本当は思ってもないんですよ。“どうしようもないから叫ばせて!”みたいな。
京ちゃんの話を聴いて、曲の解像度が上がりました。
初めて聴いたときは申し訳ないくらいぼんやりと、“実らない恋心を歌ってるのかな”、“いままでのINIにない曲調だな”くらいに留まっていました。
1番と2番の違いを楽しむとある発見がありました。
京ちゃんの歌声は主人公のセリフみたい
私が藤牧京介さんの歌声にすごみを感じるのは、歌詞の意味がスッと心に届くところです。
心を込めて手紙を読んでもらったような温かみと、一瞬で世界を包み込むような浸透力のある透き通った声。
カバー曲も藤牧京介さんが歌うと、大げさかもしれませんが「作詞・作曲・編曲:藤牧京介」のオリジナル楽曲に聴こえます。
その京ちゃんが作詞するとどうなるか。
聴いてほしいのが、「I don't care」
京ちゃんの1番と2番の歌い回しです。
思わず「こんな遊び方しちゃうんだ!?おもろっ!!」と声に出ました。好きです。
最初の「I don't care」
この気持ちが
すぐに伝わるなら
I don't care
短く、吐くような「I don't care」
私はこの歌い回しが、“君を想う気持ちでどうにかなりそうだから、バレるならバレたって構わないさっ”と吐き捨てているようで、
“もう覚悟はしてあるんだ”というようにも、“なるようになれ”と少し投げやりなようにも、痛みを知る前の、少し無敵のような”俺は大丈夫”にも聴こえてきて、そのすべてが“男の子”らしく感じます。
2回目の「I don't care」
それでも今
君といれるから
I don't care
かすれて、めっちゃ引きずってるじゃん!?
めちゃくちゃ気にしてるじゃん!!
突っ込まずにはいられないほどメンタルに出ちゃってます。
ここが好きでしょうがないです。
この少し前の歌詞
「ねぇ ほら あの雲綺麗だね」って
不意に僕から目逸らす
僕の気持ちに気づいていて、気まずいのか、
気をそらせるような行動から気持ちが向けられていないことが分かります。
”気がないことに気づく僕” のハートブレイクの部分を、歌詞ではないところで表現されているんだと気づいたときに、この曲が一気に面白くなりました。
京ちゃんの歌うところで、この曲の主人公・僕が顔を出します。
一気にこの曲が物語をともなって進行していることが分かります。
京ちゃんのパートではありませんが、
1回目の「I don't care」の前にある「Okay」にまだ軽さがあって。
2回目の「No way」では、君の挙動から察して、一瞬目の前が真っ白になっていくような気が遠くなる感じがして面白いです。
君と僕は友達?
私は「YOU IN」を友人関係の歌だと思っていました。
どこかでそういう話を聞いたのか、改めて調べてみるとソースが見つかりませんでした。
勝手にそう思っただけのようです。
ですが、ここからは友人関係だからこそ面白いと思った話もあります。
作詞の意図ではない、オタクの妄想となりますので、”そんな解釈もあるんだ”くらいに受け止めていただければ……誤解のなきよう (土下座) 。
改めて「From INI」での曲紹介
すでに君の中に深くハマって抜け出せない僕を視覚的な比喩を使って愛らしく描写している曲。
君 YOU が僕の中に、IN 入ってくる。ときめく感情をさらに大きくさせるような曲。
※「君」の沼にハマってしまった「僕」、であってその関係性については言及されていません。
想い人は、月ではなく朝日
朝日のように眩しくて ほら また
いつも僕の事 惹き込むの
「月が綺麗ですね」
という愛をささやく有名な言葉があるように、秘め事には夜に輝く月が似合いそうですが、歌詞の中には月が登場しません。
京ちゃんは思いを寄せる人を月ではなく「朝日」に例えるのかと思いました。
好きな人って、実際に発光してるのかと思うくらい光って見えますよね。
「僕」が好きな人は、闇を新しい一日に変えるほど眩しいんだねと思いました。
夜会う人ではなく、朝会う人。
朝になったら別れる人ではなく、朝一で顔を合わせたときに自分の暗い気持ちを晴らしてくれる存在。
朝会って、そこから一緒に居られるんだって嬉しくて高揚する気持ちを想像しました。
特に京ちゃんは野球部の経験があるので、朝練で早く出ることもあったのかなとか想像すると、私が思い出す朝日よりももっと眩しい朝日の思い出があるのかなとか、誰よりも早く顔を合わせる友人もいたのかなとか。
そんな想像のもと、学校の友達をイメージして聴いていました。
月が綺麗ですね
突然ですが、私はSNSなどで綺麗な満月の写真と一緒に「月が綺麗ですね」と添えられることがあまり好きではありません。
「I love you.」の翻訳として有名な「月が綺麗ですね」
だからこそ、月が綺麗じゃないときに言いなさいよ。
と思っています。
「君のことを考えると世界が輝いて見える。」という気持ちで使ってくれたら、どんな月だっていいはずじゃない。
「満月が綺麗だから、思わず君のこと考えてた。」と遠回しに言いたいなら、添える言葉は「君も同じこと考えてたらいいな」とか、写真だけでも汲み取るからさ。
そんなふうに思っているひねくれものなので、
京ちゃんが月ではなく朝日や雲を表現に使ったことに拍手しました。
歌詞には「暗闇」が使われているので、余計に「月が出てこない」と考えていると、ある気づきが。
雲のない空に月はあるのか
出口の見えない心理状態を例えるなら、トンネルや迷路や洞窟が想像しやすいと思います。
「YOU IN」ではトンネルなどの言葉は登場しませんが、「暗い闇の中」という表現が出てきます。
私はこれを最初トンネルの中にいると想像しながら聴いていました。
ですが2番では
「暗い道の中」
トンネルも「道」ではありますが、その少し前の歌詞を見ると
なら叫ぼうこの雲のない空に
え……空見えてるから、トンネルじゃないじゃん!?
君が綺麗と言った雲もない。
暗い道を歩いている僕。
雲もないのに暗いということは、少なくとも満月ではない。
もしかして月は見えてない……?
(欠けた月ならそれほど眩しくないので、月はどこかに浮かんでいるかもしれませんが)
月の見えない道を歩いているとしたら、僕は遠回しな愛の表現「月が綺麗ですね」も言えない状況なんだ。
”「愛しています」と伝えることもできない”ということを、視覚的に絡ませながら「愛しているが言えない」と語らず、さとらせるように歌う曲。
そう思った瞬間
藤牧、天才じゃねぇか!?
と叫びました。
本当の京ちゃんの意図がどうなのかは分かりません。
ですがそう思って聴くと、この曲がさらに面白く聴こえます。
最後の一節
だけど僕は君を探した
朝日は昇る前から空全体にうっすら影響を与えるので、「探す」よりも“もうそこにいる”感じがします。
だからこそ朝日が現れたら“もう手遅れ”な感じがあって、君の存在感を強めていますよね。
個人的に “暗い道を歩く”としたら、月が出ていないか空を見ます。
視覚的に月を探す僕を想像すると、そこに月がないだけで「月が綺麗ですね」も言えない、置かれた状況と心理がリンクして
藤牧、天才じゃねぇか!!!
(私は何度も叫びたくなりました。うるさくてごめんなさい。)
勝手な曲のイメージ
個人的な歌詞の解釈です。
キュンとする振付のステージ
「YOU IN」の振付は同じINIメンバーの木村柾哉さんが担当されています。
長い撮影のあとに帰ってから考えられたそうですが、そんなに時間がない中で作られたとは思えないくらい「YOU IN」の世界観にキュンとします。
ライブで拝見しましたが、メンバーの動きが風のように見えたり、歌詞に合わせて場面転換していくようで、まるでアニメのオープニングを見ているような気持ちになりました。
自分の中だけで広げていた世界よりも、もっと胸が高鳴るような恋心を感じて、切なさもありますが、闇が深まっていくというよりももっと軽やかな気持ちで、青春らしい恋心を抱いて進んでいくような……キュンとする感じです。
最後に京ちゃんがトンネルの出口に立って外を見ているような振付で終わるので、“やっぱりトンネルなんじゃん!?”とか思いました。
このステージを見ると、けっこう愛しい感情が溢れてきます。
“愛してるが言えないソング”の持論を展開したばかりですが、それよりも“溢れてくる恋心を抑えられない”切なく甘い恋の歌のように思えました。
運営さん……本当に動画UPしてください。泣
YOU IN 聴いてみてください
いかがでしょうか?
ラブソングは「愛してる」を使わずにいかに愛を伝えるかだと思っているのですが、
数あるラブソングのうち「愛しているが言えない」ソングは、私はあまりない出会いでした。
だからこそ、これは令和の「現代の詩人」だ。
天才じゃねぇか!?と思いました。
「YOU IN」は聴くほどにイメージが豊かになってくる曲で、すごく面白いと思います。
聴いたことがない方は、ぜひ一度聴いてみてください。
雲は自由の象徴?「Let's Escape」
おまけのように付け足してしまいますが、藤牧京介さんが初めて作詞に参加された曲に「Let's Escape」があります。
“君と一緒なら怖くないから、二人でこの町を抜け出そうぜ”という感じの曲です。
こちらは共同作詞になっていますので、どのパートが京ちゃんの作詞なのか分かりませんが、歌詞に「雲」が登場します。
窓から見えるあの雲のように
We've got to go out
さ、気の向くまま
僕が風になって押すから
行こう
“君の不安は俺が吹き飛ばすし、俺の不安は君がいるから怖くないんだ”
雲行きが怪しいとか、風向きが悪いとかいいますが、“まだ来ない未来への不安は杞憂なんだ、ここに居る理由を考えるのはよして、あの雲みたいに自由になろう”という感じに個人的には受け取っています。
「Let's Escape」だけを聴いているときにはさらっと思っていたことですが、「YOU IN」を聴いてより雲に自由を感じました。
勝手な解釈ですが、君のセリフ「あの雲、綺麗だね」は “困らせないで、自由がいいの” という意味に思えました。
「Let's Escape」は僕と君の間にあったかもしれない、「YOU IN」とは違う世界線の物語のように思えて、面白いです。
「From INI」で聞ける「Let's Escape」の話 (#73)。9分ごろから。
audee.jp
一緒に聴くと相性がいい「Runaway」
INI 1ST ALBUM 「Awakening」に収録されている、メンバーの田島将吾さんが作詞に参加された曲「Runaway」。
こちらの歌詞は冒頭から「朝日」で始まり、曲中には「暗闇」が出てきます。
海を航海するような歌詞ですが、「Runaway」を聴くと「YOU IN」の切なさが緩和されて味変します。
暗闇の中を 突き進んでいこうか
「Runaway」の優しい曲調と彷徨うことを肯定的に受け止めている歌詞が「YOU IN」の印象を甘くまろやかにしてくれます。
「YOU IN」を聴いてから「Runaway」も聴いてみてください。